四国の最西端、八幡浜から九州へ鋭く突き出したのが佐田岬半島だ。日本一長い半島とのことで全長40kmになるという。ほぼ伊方町に属し、最近話題の伊方原発は半島の付け根に近い所にある。交通の便は思っていたより便利で、バスは伊予鉄道が松山~八幡浜~三崎港への特急バス3便と伊予鉄南予バスが八幡浜~三崎港へ3便出ている。八幡浜~三崎港の間は特急も普通も差はない。三崎港からどう動くかによってはバスでも十分利用できる。なお、三崎港から先はバスはないので、自家用車以外ならタクシーや貸自転車でサイクリングという方法がある。三崎港から半島の先までは約15Kmなので、サイクリングでも片道45分で行ける。
なお、岬の駐車場までは車も自転車も入れるが、その後は徒歩で灯台まで行かなければならない。先端までの距離は約1.8kmで、いろいろ寄ったとしても1時間半~2時間ぐらいを見ておけば大丈夫だろう。
やはり、何と言っても海の景色がすばらしい。水が澄んでいて心が洗われる。思いのほか戦時の遺構が数多く残っていて、自然との違和感を感じざるを得ないが、一度は尋ねてみるに値する地だろう。
佐田岬を訪ねて
今回はJR四国で松山から八幡浜に入り、バスで佐田岬の終点「三崎港口」へ向かい、三崎港口にある「はなはな」という所で、自転車を借りてサイクリングすることにした。
なお、八幡浜で1泊し、翌朝朝一番のバスで三崎港口に向かった。
八幡浜駅~三崎港口
四国へは何度も来ているが、八幡浜駅に降りるのは初めてだった。JRの駅構内は何の変哲もないが、駅の前には大きなロータリーがあるが、やや殺風景で、駅舎も一般の家のようなたたずまいであった。中心街は駅前ではなく八幡港の近くにあり、1.5kmぐらい離れている。着いた時間が遅かったので店はほとんど開いていなかった。八幡浜チャンポンと元祖魚肉ソーセージが有名と聞いていたがありつけなかった。
バスは駅から見てロータリーの左側の停留所から出る。伊予鉄道と伊予鉄南予バスという2つの会社(他に宇和島自動車があるがこれは三崎港には行かない)があり、伊予鉄道は松山市駅から特急で八幡浜経由しており、八幡浜からは伊予鉄南予バスと同じコースで行く(所要時間も運賃も同じ)。それぞれ3便ずつあり、1日で6便あるので、うまく計画すれば日帰りも十分可能だ。
バスは1時間12分の所要時間で三崎港口(終点)まで行く、バスの表示は「三崎港」となっているが、そのバス停のひとつ先のバス停まで行く。
なお、途中に「伊方ビジターズハウス」というバス停があり、四国電力の伊方原発のPR展示施設になっており、この辺りまでは何人か乗っていたが、学校が休校中だったこともあり、その先はほとんど乗り降りは無かった。
三崎港口に着くと、左手は「国道九四フェリー」の乗り場になっており、右手は「伊方町観光交流拠点施設 佐田岬はなはな」という建物がある。
ここで自転車を借りることにした。朝9時から開く。それまでしばらく時間があったので港周辺を歩いてみた。
港から佐田岬の先端方向を望むことが出来る。フェリーは、ここ三崎港から九州の佐賀関まで往復しており、1時間に1本出ている。乗る車も結構あって交通の要所になっているようだ。九州まで1時間10分の所要時間とあった。
9時になったので「はなはな」へ行く。観光案内所があり、レンタサイクルを申し込む。申請用紙の記入と証明書提示、利用料4時間で500円、保証金1000円(後で返してくれる)を払って自転車(全部電動)を借りる。他に人がいなかったこともあって、10分ほどで手続き終了し、出発する。荷物は預かってもらうことが出来た(無料)。
三崎口~駐車場
「はなはな」から一路、灯台に向かってひた走る。約15kmの道のりだ。結構アップダウンがある。道は完全舗装されているから走りやすい。県道256号線を行けばいいので迷うほどのところはないが、一か所だけ灯台に向かう道と佐田岬港に向かう道の分岐点が分かりにくい。往きは、灯台方面と書いた看板があるので、それを見印に行けば問題ない。ただ、灯台方面と表示のある道は実は256号線でないことが後で分かった。256号線は佐田岬港(海側)の方を通って灯台に向かう道だ。なお、帰りは佐田岬港経由を通った。もっともどちらも三崎港と灯台方面を結んでいるので問題はない(灯台方面の方が寄り道しない分、距離は短いようだ)。いずれにしても往きは西へ、帰りは東へと向かっていればよい。ただ、細い半島にもかかわらず海が見えるところが少ないのと、道がけっこう蛇行しているので方向感覚を失う。海が見えれば、どちらに海があるかで方向が分かるのだが、太陽の方向や磁石で確認したほうが安心なところもある。
なお、途中はこれといった見どころはない。たまに海が見えるところがあるのと、ミカン畑(ブンタンらしい)が連なったりするような景色があるぐらいだ。爽やかな空気の中でサイクリングを楽しむのに徹する。
自転車で灯台駐車場まで約45分かかった。駐車場は灯台から約1.8km離れている。ここからは徒歩で灯台に向かう。なお、駐車場から海岸線と灯台をかすかに望むことが出来る。
駐車場~佐田岬灯台~御籠島(みかごじま)
駐車場の入口の脇(駐車場に向かって右側に)1m幅ほどの舗装路がある。自転車で入れそうだが途中急坂や急カーブがあるが柵はないし、崖部分もあるので危険だ。よって、徒歩に限る。
遊歩道は駐車場から灯台まで約1.8kmとある。結構アップダウンがある。最初の内はほとんど低木の茂みの中で、周りの景色を見渡せるところはない。海に囲まれているのに山中に入った感じで薄暗いところもある。
3分の1ほど進んだところで、前が開けてくる。海岸も見えてくる。坂を下って行き、一番低い所まで行くと、左側に海岸に降りる坂道が、右側に広場に降りる階段があり、先に瀬戸内海がある。地図では「オソゴエ交差点」とあった。ちょうど両側に宇和海と瀬戸内海が見える場所で、昔ここをオソ(カワウソのことらしい)が両方の海を行き来するのに越えていた場所という由来だとか。そして、車は入れないのに県道256号線(佐田岬ー三崎港)の起点になっているとのこと。起点プレートがあるらしいが気が付かなかった。
左側の宇和海側は穏やかな透き通った海岸線と荒々しい岩肌が印象的だ。
舗装された坂道を降りて海岸へと出る。水が本当にきれいだ。
反対側の瀬戸内海側に降りて行く。ここは元はキャンプ場だったとのこと、その広場の奥に「豊予要塞倉庫跡」という戦時遺構がある。この辺りは軍の司令部があった所のようで、そのころの倉庫が残っている。大正時代に建設されたようだ。
瀬戸内海の海岸線まで出てみる。こちらは北側に面しているせいか、海の色がやや濃いブルーに見える。港のようなところがあるが、これも軍の桟橋だったようだ。宇和海側も瀬戸内海側も今では人の気配がしない。
オソゴエ交差点からは上り坂になる。この後、灯台方面への道を外れて、椿山展望台に向かう。もっとも椿山展望台からもそのまま灯台につながっている。山と言っても、山登りではない。
椿山展望台からは灯台を見渡せる。灯台の場所より高いので、やや見下ろす感じとなる。佐田岬の先端に向けて一望することができる。
椿山というだけあって、遊歩道は椿(ヤブツバキ)の木々に覆われている。
椿山展望台から下ると、ついに佐田岬灯台の正面(裏側?)に出る。灯台は丘の上にあり見上げるような位置にある。
灯台への階段を登ると、海側に四国最西端の碑がある。このさらに西に御籠島(みかごじま)があるが、これは島の扱いで四国としてはここが最西端ということのようだ。灯台は1918年に点灯したとのことで100年を超す古いものだ。
灯台から九州方面を見渡すことができる。九州は本当に目と鼻の先だ。距離にして13kmしか離れていないそうだ。
下の写真では、中央のやや黒ずんだように見える島が「黒島」、その右の丘のように見えるのが「佐賀関」、そのさらに右に「大分」、「別府」がある。
灯台の丘から降りて、「御籠島(みかごじま)」へ向かう。途中の丘の上に「忠魂碑」があった。この地は戦争での直接の被害は無かったようで、この忠魂碑は砲台の建設などの際の事故の犠牲者を慰霊するもののようだ。
忠魂碑を左手に見て下って行くと、大きなプールのようなものが見えてくる。写真は別の位置から撮ったものだが、昔の「蓄養池」だそうだ。いわゆる生け簀で、近くで獲って来た魚やエビなどを入れておくものとのこと。今では使用していないという。
この先に「御籠島」があるのだが、この蓄養池で陸続きになっているようだ。
また、蓄養池から丘を登って御籠島展望台に着く。正面に佐田岬灯台が見える。灯台の形を切り抜いたようなものがあり、どうやら灯台を真ん中に置いて写真を撮れということらしい。一応撮ってみた。
展望台から、灯台の下の方を見ると、何やらトンネルの出口のようなところがある。一方、御籠島の岩場にも同じようなものがある。戦時中の砲台の跡だそうだ。両方で4つあるそうだが、その内の御籠島の砲台跡は入れるとのことで行ってみる。
展望台から降りて、蓄養池に向かう途中で登り口がある。海と反対側から砲台の海岸側までトンネルになっていて、その先端部分に海に向けて大砲が置かれていたようだ。「洞窟式砲台跡」とあり、今はコンクリート補強されているが実際は素掘りのトンネルだったとのこと。ただ、実戦では使われることはなかったということだ。
砲台の見学をして、佐田岬の要所は見ることが出来た。ここから帰路につく。帰り道はほぼ同じ道をたどることになる。
三崎のアコウ
三崎港の近くに大きなアコウの木があると案内に書いてあったが、往きは気が付かずに通り過ぎてしまったので、帰りに寄ろうと思いさがしたが見当たらない。どこにあるかを事前に調べておかなかったので見過ごしてしまったのかと思ったが、実は三崎港の「はなはな」からわずか100mほどしか離れていない所に有った。灯台下暗しだ。三崎港の交番の真ん前にある。もっと奥まった所という先入観念が邪魔をしたが、県道に面したところに街路樹のように大きな木が枝を張り出していた。
このアコウは現在4本あり、天然記念物になっている。根元の複雑に絡んだ気根が年代を感じさせる。樹齢は不明だが、幹回りは約7m、北限地にあるアコウということだ。
その後、三崎の町を一巡して、「はなはな」に戻る。9時15分に出て13時30分には帰って来た。おおよそ4時間の所要時間だった。
まとめ
所要時間については、自転車で三崎港~灯台駐車場が片道15kmで正味45分ほど、往復で余裕を見て2時間、灯台駐車場~佐田岬灯台~御籠島で徒歩往復2時間として4時間と見ておけばほぼ問題ない。
サイクリング工程での景色は、細い半島ではあるが内陸部を通るので海を見ながら走るようなところはごく少ない。結構アップダウンがあり、電動自転車だったので助かった。
徒歩行程は、ここも海が見えるところは思ったより少ない。ただ、ポイント・ポイントで絶景は楽しめる。低木の木々に覆われた遊歩道をあるくのも気持ちがいい。
ただ、自然の宝庫のように思って行くと、もちろんその趣きはあるのだが、戦時遺構が多く、少し違和感を感じるところもあった。もっともそれが現実なのだろうから、それはそれとして受け止める必要があるのだろう。
ただ、透き通った海の青さは、全てを忘れさせ、心を洗われる光景であった。
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