会社から急に呼び出されて、会社をやめるように言われたら気が動転して対応方法が思い付かず、追い込まれて会社に居にくくなったりして、結果的に退職を同意してしまう前に、自分を守る方法があります。
まずは、どう考えても理不尽な理由で辞めるように言われた場合、絶対に同意しないことです。まず、どんな場合も「やめない」という意思表示をした上で、次に示すような方法で解決を探りましょう。
仕事の関係上、色々なケースを見てきたので、具体的な方法についてアドバイスします。
どんなときに退職と言われるのか
①法的な犯罪を犯して有罪判決になった場合
②会社の金品を着服したり、会社の名誉を著しく傷つけた場合
③会社の順守義務を守らず、会社の是正勧告や指導などにも従わず繰り返すような場合
④会社の経営が悪化し、人員整理が必要になったとき
⑤能力的な問題や人間関係あるいは長期療養などを理由とする場合
など、様々な理由で退職を言ってくる場合があります。上記のうち、①②③のような懲戒解雇にあたるようなケースは、事実ではなく理不尽であると言うことのできる場合に「不当解雇」として争うことは出来ます。しかし、ケースバイケースなので、ここでは対象としません。
④はいわゆるリストラで、対処方法がやや違う所があるので、別の機会にまとめます。
よって、⑤のように、会社の経営が行き詰まっていないのに、しかも特に落度があるとは思えないのに、自分だけもしくは数人をターゲットにして会社がやめさせようとしている場合について何をすれば自分を守れるかについて説明します。
退職勧奨ー「やめてほしいんですけど」
退職勧奨とはその文字の通り、「退職を勧める」ということであり、理由はともかく、「やめろ」と要求するのではなく「やめた方がいいですよ」と促すことを言います。
言い方は色々あるでしょう。例えば「君にはもっといい仕事があるのではないか」という、おだて型や、「君がここでするような仕事は無い」のような脅迫型など、どれを取っても、「やめろ」とは直接的には言わないだけで、内容は「やめろ」ということであり、場合によっては「退職金を上乗せして払う」などの条件を付けたりすることもあります。
なぜ、会社は「やめろ」と言わないのか、ーーーそれは会社が一方的にやめさせることは「解雇」ということになります。実は、会社が従業員を解雇する場合には法的に労働者を守るための色々な制約があり、それをクリアーする必要があるのです。すなわち、会社がやめさせる法的根拠を示さない限り「不当解雇」ということになり、多くの場合、会社側が負けることが多いのです。
そこで、会社は一方的でなければ問題ないと考えます。すなわち従業員が退職に同意したとすれば、あくまでも円満退職ということになり、会社は本人がやめると言っているのだから違法ではないと言う理屈にします。
これが「退職勧奨」で、会社が従業員に退職を勧めて、従業員がそれに同意したという証拠を取って成立させようとします。
ただ、反対に言えば、このことは「従業員が同意しなければ退職させることはできない」ということであり、退職勧奨にも限界があります。
ですから、「やめたくない」、「こんな会社にいたくはないが条件次第だ」とするならば、判断のための時間稼ぎをすることも含め、まずは、同意(最終的に退職届を出すこと)をしないことを貫いてください。
なお、会社側は専門家ですから、色々な手を使ってきます。脅したり、すかしたり、やる気をなくさせたり、執拗に説得してきます。普通はそれに耐えられなくなったり、マインドコントロールされて退職の同意に追い込まれます。
その状況から抜け出す決まった方法があるわけではありませんが、基本的には会社に反論できるような事実や証拠をつかむことが必要です。
例えば、①やめさせようとしている理由が事実でない、②やめさせるために配置転換などを行なった、③やめさせるために異常なまでに執拗に迫った・・・等がなかったかというようなことです。
退職勧奨を受けたらまず行うこと
やめる気がない人や考える時間が欲しい場合も、まずは「やめたくありません」とはっきりと言うこと。そして時間を稼いで対処の方法を考えることが重要です。会社は「やめたくありません」と言っている間は絶対にやめさせることは出来ません。ですから、決して、「分かりました」とか「考えておきます」というような中途半端な返事はしないことです。
中途半端な返事をすると、後日、それを理由に「分かった、と言ったのは、やめる、という意味で言ったんだろう」とか「考えた結果、どうだった?」などと、相手に面談の再開を容易にさせてしまいます。
ただ、問題は「やめたくありません」と言ったからといって、攻撃の手が緩むわけではありません。相手は狙い撃ちしていますので、時間を空けて「やめたくないと聞いたんで、いろいろ検討したんだが、やはり、ここにいるのは無理だよ」などと追い打ちをかけてきます。
それでも、あなたは「やめたくありません」「やめる気はありません」「やめないですむ方法を検討してください」などと食い下がってください。何度かのやりとりで会社側があきらめれば良いのですが、次第に強硬になったり、暴力的な言葉や、繰り返し話を持ち出すような場合には次の段階に進みます。
実際、多人数で組織的に攻めてきますので、次第に自分だけでの対応が難しくなったり、あるいは精神的にまいってしまうような場合は、次の段階として他への仲裁を頼む方法があります。しかし、他に頼むためには、その事実を示さなければなりませんので、証拠づくりのための準備が必要になります。
退職勧奨に対抗するための準備
ここからは、証拠づくりの方法について説明します。
他に仲介を頼むというのは、組合などの内部の組織や労働局や裁判所などの公共機関となりますが、いずれにしても、それらの組織・機関にどんなことが起こっているのかを説明する必要があります。当然のことながら「会社が私をやめさせようとしているので何とかしてほしい」と依頼したら、「だれが・どんなふうに・どんな頻度で・どんな言い方で・・・等々」という質問があるのは自明です。違法性や酷さを説明しなければなりませんが、口頭で思いを語っても完全に納得してもらうことは難しいでしょう。そのために動かぬ証拠を用意することが必要になるのです。
証拠づくりは、退職勧奨であることが分かったら、早くから準備することを勧めます。時間が経ってからだと、途中経過があいまいになったり、精神的に追い詰められてからでは作る気力も失われてしまいます。証拠をつかむために戦っているという前向きな気持ちで早い段階から対処していくといいでしょう。
証拠作りは客観的な事実(面談の記録)を書面に残す、自分の意思を会社に示す場合に文書にして提出する、会社側の主張の趣旨を文書でもらうことなど基本的に紙を残すことです。なお、面談記録などは感情的な事や主観では書かないこと。あくまでも客観的(言った通り)であることが重要です。
具体的には以下のような記録、文書を残すようにしてください。
①面談の内容は必ず記録を取る(ボイスレコーダーの併用が望ましい)
退職勧奨だと判断したら、必ず記録を取ること。面談の始まり時間と終わり時間、出席者、やり取りの内容をそのまま記録する。できれば携帯の録音機能やICレコーダーにも記録を取っておく。
②会社をやめなければならない理由を文書でもらう
「なぜ退職しなければいけないのか、文書にして示してもらえませんか?」と依頼をする。これは会社としては嫌なはずで、何かをしようとしている、裏に誰かいると感じるはずです。これで攻撃の手を緩める可能性もあります。
口頭だけだと、後で「言った覚えがない」とか「そういう意味で言ったわけではない」など言い逃れをしてきます。これを防ぐことと、示された内容に嘘や強引な理由があれば反論をすることができます。
たとえば「あなたには能力がない」というならば、その具体的な事実(例えば他の人との比較や不良率など)を示してもらうようにします。
こうすることで、会社側の手の内が見えてきますし、でっちあげの理由であれば嘘をついて退職に追い込もうとしている事実を説明する証拠になります。
③会社から要求された回答は紙に書いて提出する
会社から何らかの回答をしろと言われた場合、結論の部分だけ回答を文書にして出す。これは話しづらい状況において、言いそびれたりすることを避け、かつ意思を明確にすることができるからです。ただ、このとき感情的なことや私的なこと、意見や反論を書かない方が良い。この目的はやめたくない説明を述べるのではなく、「やめない」という意思表示をするためだからです。
文例としては、「先日言われたことを考えてみたのですが、やはり私はこの会社を辞めたくありません。今後とも業務に励んで行きたいのでよろしくお願いします。」ぐらいに留め、日付・名前・印を押して手渡せばよい。多分これでは相手が期待しているような(意見を論破して追い込みたい)目論見は外れて、「意味のない回答だ」と激高するかもしれませんが、こちらとすれば「やめたくない」という意思表示を記録として残すことが出来ます。気にする必要はありません。むしろ議論を始めると相手のペースにはまる可能性もあるので注意しましょう。
④医師などの支援も借りる
何度も攻撃が続き、気持ちが不安定になったら、早めに心療内科などに受診して診断書をもらって提出すると良い。耐えきれない状況に陥った場合は「休養」を診断書に書いてもらうということも考えられるし、診断書に「会社での度重なる退職に関する打合せが負担になっているので、今後悪化しないように考慮してもらいたい」というように記してもらうことも考えよう。
これは、会社がこのような状況に陥れたという証拠にもなるし、場合によっては、攻撃の手が緩む可能性もある。
いずれにしても、外部の助けを求めるには、その事実を説明する必要があり、そのためには客観的な証拠を積み上げておく必要があります。できれば、時系列で何があったのか表を作っておくと良いでしょう。
退職勧奨が違法となる例
残念ながら退職勧奨を外部機関に解決依頼できるのは、何らかの意味で違法になるような場合ということが必要になります。単純に「やめてくれ」「やめない」を繰り返しているだけであれば違法にはならないということです。しかし、実際には、「やめない」と言い続けていれば必ず態度や言い方が変わって来たり、強硬手段を取ってくるものです。それらの中に違法性を見つけていく必要があるのです。
違法となるケースは色々ありますが、代表的な例としては次のようなものが挙げられます。
①「退職勧奨に応じなければ解雇することになるがいいか」のような発言をする
②「退職勧奨なら退職金は出すが、解雇だと出ないがどうするか」のような発言をする
③「退職勧奨に応じなければ会社が与える仕事はなくなるぞ」のような発言をする
④実際に能力に見合わないような閑職を与えたり、配置転換する
⑤事実と異なる理由で退職勧奨をする
⑥精神的・暴力的言動で追い詰める
⑦面談の回数が頻繁であったり、長時間であること
①②の場合、特別な場合を除いて解雇は出来ないにも関わらず、解雇を理由に退職勧奨していることは、解雇という言葉で脅迫したことになる。また、その結果、退職勧奨に応じたならば、それは本人の意思ではなかったということになる。
③~⑥は退職に追い込むための嫌がらせであり、ハラスメントにあたる。
⑦は例えば毎週2度3度と呼び出されたり、時間が2、3時間と長時間であるような場合は大きな負担や精神的に追い詰めており、正常な判断をさせていないことになる。
このような、言動などが出てくれば仲裁を外部機関に依頼することが出来ると考えたらよい。残念ながら、「やめてくれ」と言われただけでは、なかなか取り合ってくれないのが実情だ。なお、労働局相談コーナーのように無料で相談に乗ってくれるところもあるので、不安に思うことや相談したい場合、あるいは外部に依頼できる内容なのかどうかを聞くなどすることも良いだろう。
どんな対応機関があるのか
外部へ仲裁を依頼する方法は、必ずしも弁護士を頼む方法ばかりではありません。相談や利用できる機関はいくつかあります。以下に主たる機関を示しますが、どこを利用するかは必ずも一定の方法があるわけではありません。解決の難易度、要する時間、費用などを考慮してどうするか決める必要があります。
組合(社内)
労働者の立場で会社との交渉を行っており、会社へ進言はしてくれるとは思います。ただ、既に会社から手が回っていたり、御用組合だったりする場合は期待度は薄くなります。一方、組合が強いと分かっている場合は相談する価値があるかもしれません。なお、組合の場合は社内なので情報が流出したり、不利な情報を会社に連絡されてしまう可能性があるので注意が必要と思います。
東京ユニオン
組合のない場合などは、東京ユニオンに加入して、支援を願うことができます。ただ、ユニオンに加入することや会費が必要になります。ただ、組合を持たない会社の場合など、ユニオンは会社との利害関係が無いので強い意見を言うことが出来る点は期待できるでしょう。基本的には問題が起きてからというより、起きる前から自分の地位を守るための保険のようなものと考えた方が良いかもしれません。なお、トラブルに対する相談窓口もあります。
労働局
厚生労働省の機関で、各地域にあり、費用は無料です。
労働局での対応は3種あり、段階的に、「相談」「労働局長による助言・指導」「紛争委員会によるあっせん」となっています。問題が起きた時に、まだ深刻になっていない状況でも、まずは「相談コーナー」に行って、具体的な方法を教えてもらってから対処方法を考えるのが良いでしょう。
なお、労働者を守るために法に則って会社を監視する立場ではありますが、法的強制力はありません。いわば国の機関として圧力をかけることができるのが強みなので、不当解雇や配置転換、パワハラなどの問題には有効と思いますが、慰謝料などを請求したい場合などにはやや限界があります。
●相談
各地の労働局に「総合労働相談コーナー」というところがあり、ここに相談に行きます。予約は不要で、秘密は守られます。(電話相談も出来るようですが、内容を正しく知ってもらい、適切な対処方法を教えてもらうには面談の方が良いと考えます)
相談に行くと、「どのような状況か」や、「どのように解決したいのか」を聞かれます。その上で、どのような解決策を望んでいるのかなどを考慮して、相談員が解決の方法をアドバイスしてくれます。すなわち労働局で対応可能か、他の機関で対応したほうが良いか、その場合の方法や窓口などの情報、弁護士の情報などを受けることができます。
●労働局長による助言・指導
相談の結果、会社に対して「労働局長による助言・指導」をすれば解決の可能性があるだろうと判断した場合は、会社に対して「助言・指導」してもらいます。ただ、あくまでも「助言・指導」で「命令」ではありません。よって、強制力はありません。ただ、会社としては所管の労働局に「にらまれている」というように捕らえて、現在の行為を断念する可能性があります。相談員に可能性があるかを判断してもらい、可能性がありそうであればお願いします。なお、この時点で会社は労働局に相談していることを知りますので態度を硬化する可能性も考慮してください。少なくともここまで来ると会社とは臨戦態勢になると 考えた方がいいでしょう。
ーーー会社と争う場合は自分が有利な状態で臨む必要があります。そのためには会社側に余裕を与えないということも戦略です。よって、ここに示すような対応策を順番に試すのではなく、一気に先の手を使うことも考えてください。なお、そのためには準備が整っているか、すなわち争点や証拠は揃っているかということになりますので、まだそこに至っていない場合は、ここで一呼吸入れて準備に集中する必要があります。すなわち、労働局に相談をした段階で何が最も有利かを考えてください。安易に指導・助言をお願いするのではなく、指導・助言では難しそうならば、その先の対処法に進める、その場合はさらに準備は必須となります。
●あっせん
「指導・助言」を行って、ダメだった場合や、もともと「指導・助言」では解決の可能性が低い場合は、「紛争委員会によるあっせん」を勧められるかもしれません。
あっせんは、双方を労働局に呼び出して、両者の主張を聞きながら、解決案を紛争委員会(専門の部隊)が提案し、双方に同意を求めます。ただ、このとき、当事者同士が顔を合わせることはなく、通常は別々の会議室を用意して、紛争委員会が相互に行き来して解決策を探ります。
ただ、「あっせん」はあくまでも話し合いによる合意が原則で、決定や命令はしませんので、話がまとまらなければそれで終わり(不調)になります。場合によっては初めから会社側が応じないという場合もあり、いずれの場合もまとまらない場合はそこで終了します。(終了してしまった場合は、労働局としての次の手はありません。この先は裁判所に依頼することになります。)
あっせんの費用は無料、時間は内容にもよるが、半日はつぶれます(ただし、それ以上はない)。法的拘束力がないので合意しても後に覆される可能性もあります。また、ここでの決定が次の裁判などに影響することもありません(秘密であることが前提のため)。
あっせんは費用を押さえたい場合に使えますが、合意に至るのが難しそうならば、飛ばして次の段階に進むことを考えた方が良いかもしれません。ケースバイケースなので相談の際にこの辺りの情報とアドバイスをもらって下さい。
裁判所
裁判所というと少しビビッてしまうかもしれませんが、このような労働問題については簡易な方法が用意されています。それは「労働審判」と呼ばれるもので、結果には法的な拘束力を持ちます。この「労働審判」で和解できない場合は、いわゆる「裁判」になります。
●労働審判
最寄りの地方裁判所に申し立てをします。受理されると呼び出しがかかります。審判は労働審判委員会(委員3人:裁判官1人と民間の経営経験者1人、組合など経験者1人)が審理を行い、原則3回で和解まで進めます。月1回ペースで進み、3か月で終了と言う早い解決方法です。なお、和解しない場合は委員会が「審判」(裁判で言えば判決のようなもの)をして、それに対する異議を確認し、異議なければ和解成立の扱いになり、異議があり認められれば「審判」は失効し、訴訟に移行します。
具体的には、申し立ての時点で、「申立書」という書類を作る必要があります。それは、申し立ての趣旨(何を要求するのか)、申し立ての理由、会社との間のこれまでの事実や経緯、そしてその証拠などを示すものです。
この申立書や証拠などの文書は、受理されると、呼び出しと同時に相手方(会社)にも送られます。相手方は申立に対する反論を行い、その反論の文書は審判の前にこちらにも送付されます。
この2つの文書がベースになって審判員が各々に質問して状況の確認をしながら、どちらに非があるか、妥当な決着方法を探ります。方法は、裁判所や審判員によって違いがあるようですが、原則としては、最初の審判時の資料の確認等は相手方も同席で行い、個々の質問などは別々に行う(労働者側の質問時は会社側が退席し、会社側の質問時は労働者側が退席、これを繰り返す。基本的に会社と労働者が面と向かって主張し合うことはない)のが普通です。なお、両者同席したまま進行したケースもあったので、レアケースとは思いますが同席の方法になるかもしれません。
いずれにしても最大3回(内容や会社側の対応などで1回で終わることもあります)で、3回の場合は、1回目が申し立てや反論に関する書類の確認や両者の意思(どのようにしたいのか)の確認、2回目がその後の変化の確認を行い、和解をするために双方に審判員側から提案などが示されたりし、3回目には提案に対する回答を求められ、和解するか審判に委ねるかという結論を出し、和解であれば合意の内容を文書に作成、審判の場合は審判員の和解案を文書に作成し終了します。
その場で和解した場合はその後、文書に従って実施すれば完了。もし、実施されなかった場合は強制執行の申し立ても出来ます。審判の場合は労働審判委員会が和解の方法を決定し通知します。この通知から2週間の間に異議を申し立てしなければ、委員会審判の内容で和解が成立したことになります。
一方、異議申し立てがあり、それが認められると労働訴訟にそのまま移行してしまいます。
なお、労働審判の場合は代理人が認められます。なお、代理人は弁護士のみが認められており、同席して行うのが普通ですが、代理人だけの出席ということも可能です。ただ、短い話し合いの場なので本人が出ないと証拠の真実味や本人の誠意や精神的な苦痛の度合いが見えなくなり不利に働く可能性がありますので、本人が出るべきと思います。なお、本人だけで代理人なしでも可能ですが、申立書の作成などの作業を自分で行わなければなりません。
●訴訟
労働審判から訴訟に移行する場合と、初めから裁判で決着をつけようという場合があります。
いわゆる裁判なので、細かい点は省きますが、メリットは必ず判決が出てそれに従うという点です。一方、デメリットは最高裁まで行くことはないにしても、とにかく時間がかかるということです。1審だけでも1年は覚悟しなければいけないと言われています。それゆえ、そのための時間の無駄と、費用もばかになりません。よっぽど重大な問題を抱えていないのであれば、現実的ではないでしょう。
これは、相手方(会社)も同じで、裁判にはならないように、何とか金銭や条件を良くするなどで解決しようとしてくるのが普通です。ですから、裁判所に解決を依頼する場合は初めから訴訟するのではなく、労働審判から始めるべきと思います。実際、労働審判の場では、会社に対して、裁判が非効率であることや費用が掛かることを説明して、出来るだけその場で解決するように誘導するので、労働審判の段階で決着することが多いようです。
どこを利用して解決するか
いろいろな解決の機関がありますが、どこを利用するかを決める必要があります。
「やめる・やめない」という点に限っていうならば、「絶対にやめたくない」という場合と、「やめようと思うがこのままでは気が済まない」とか「やめる条件に金銭的解決を求める」ような場合で進め方が違ってくると思われます。
絶対にやめたくない場合
とにかく会社に残りたいという場合は、労働局に相談に行くところから始めるのが良いと思われます。そのためには、やめさせるのが不当であったり、やめさせ方に問題があるなどの理由を明確にしなければなりません。労働局の相談コーナーに行けば、その理由・主張が妥当であれば、どのように対応するのが良いかをアドバイスしてくれます。
ただ、法的拘束力がないので、和解してもそれを破ることもありますから、そのような場合は、裁判所に行くという順番で良いのではないかと思います。
やめてもいいが、良い条件にしたい
具体的には退職金や慰謝料を払わせたい場合(慰謝料要求の場合は退職したくない場合を含む)のようにお金を絡ませると、なかなか合意に持ち込むのが難しくなってきます。
「やめないで、かつ金銭な要求する」場合は、精神的苦痛に対する賠償金や、何らかの会社の理由で働けない期間があったり給与上の不利益があった場合の補填などが考えられます。
一方、「やめるので金銭的解決をする」場合は、上記の賠償金や補填金に加え、退職金の支払い・水増しなどの要求が出来ます。
この場合、進め方が分からなければ、労働省の相談コーナーで方法を教えてもらうのが、まずは費用もかからず手っ取り早いでしょう。
その上で、これまで会社と何度も面談して来たのですから、会社の出方として、お金で解決しようとしているかどうかです。解決しようとしているのならば条件交渉ですから、労働局の圧力を利用することは可能と思われるので、労働局の「労働局長による助言・指導」「紛争委員会によるあっせん」で済む可能性があります。もし、そこで決着が付かなければ裁判所の「労働審判」へ進むと言う順番ではないかと思います。
なお、会社が全くお金での解決案を示さなかったり、話し合いでは難しそうだと思う場合は直接「労働審判」から入った方が、時間の無駄にならないと思われます。
費用や弁護士はどうする
公的機関の手数料
●労働局での費用はかかりません。
●労働審判の申し立て時の費用は、訴える金額(賠償金額等)によっても違いますが、裁判所に払うのはおおよそ1万円前後が上限ぐらいで、金額を伴わない場合は500円と高額ではありません。
弁護士費用
労働局での話し合いに関しては基本的に本人のみで構いません。ただ、経緯や要求をまとめたりして話し合いに臨むのに自信のない場合は弁護士や社会保険労務士など頼むこともできます。なお、裁判所の「労働審判」になると社会保険労務士は対応できないので、初めから弁護士を頼むかですが、当然費用は高くなります。
弁護士費用は一定の報酬額が決まっているわけではないのでピンキリがあります。例えば「労働審判」の場合では、多くの場合30万円~60万円ぐらいはかかっているようです(あくまでも経験上)。
ところで、自分で弁護士を探すとなると、誰が妥当なのかも分かりませんし、高額なところに行きついてしまうかもしれません。インターネットにいっぱい名前が出てきますが、参考にはできても広告ですから事実かどうかは分からないので当てにしない方が良いと思います。
本音を言うと「労働審判」自体が弁護士が必要と言うものではないので、そんなに難しい内容ではないはずです。よって、インターネットなどで有名な所を探すより、労働局の相談コーナーで法テラス、弁護士会などの相談窓口を教えてもらい紹介してもらうことの方が良いと思います。
なお、弁護士を決めるときは、後でトラブルにならないように、決める前に費用の交渉をしておく必要があります。手付金、相談料、成功報酬(の率)など、特に成功報酬は10%~20%以上と、かなり幅があるので注意です。せっかく勝ち取っても結果によっては何も残らなくなってしまいます。
まとめ
退職勧奨の対処法をまとめてみました。労働問題はその他にも様々なケースがありますが、それぞれに解決の道を考えなければなりません。
退職勧奨は法的には許される範囲があり、その範囲にある限りは訴えることもできないという性格のものです。一方で、やめさせようとする行為は不当解雇と表裏一体にあり、そもそも違法な方法であったり、直接的には違法ではないものの、その言動行動が暴力的であったり、執拗であったりすれば、そのことがパワハラなどの違法行為と見られることもあります。よって、そのような違法な行為でやめさせようとしていることを証明する必要が出てくるのです。
そのために、出来る範囲で、違法に当たるような行動や言動を見逃さず、その証拠を積み上げていくことが重要です。勝敗の雌雄を決するのはまさにこの証拠ですので、退職勧奨だと思ったら、早い段階から対応しておく必要があります。
なお、労働局や労働審判もどちらも労働者を救う側に立って判断する傾向があります。そのため労働者にとって有利な解決方法を提案してくれますので、一定の成果を得ることが出来ると思います。
ただ、いずれも短い時間の中での判断になることと、警察や検察のような強制捜査をするわけではないので、因果関係や証拠は提出された文書からのみ判断されます。よって、相談員や審判員は、申立書や反論が「どれほど正しそうか」という心証に委ねる部分が大きいのです。例えばこの人は嘘を言ってそうにないとか、精神的に相当ダメージを負っているなどのやや主観的な判断が入り込んでくるのです。よって、正直にうそ偽りのない対応が必要です。そのためには、繰り返しますが、記録という証拠が最も大事だということになります。問題が起きたら、とにかくその時から記録を取っていくことを心がける必要があります。
非常につらい思いをしていると思いますが、解決の一助になれば幸いです。
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